NPO法人子どもとアーティストの出会い
理事長 井手上 春香 さん
ディレクター 川那辺 香乃 さん
アートを通じた活動で、子どもたちの豊かな心の成長を促す団体が、京都にあります。その名も「NPO法人 子どもとアーティストの出会い」。教員の経験もある理事長の井手上さんと、ディレクターの川那辺さんに、ワークショップなどの活動を通じて子どもたちに学んでほしいことや、学校教育との違いなどについて伺いました。
──「子どもとアーティストの出会い(以下、KAD)では「まちくさみっけ」や、人形劇「カンカン塔のみはりばん」などの活動をされています。まず「まちくさみっけ」について教えてください。
川那辺:「まちくさみっけ」は京都在住のアーティストである重本晋平さんが考案した「まちくさ」がベースとなったワークショップです。「まち」とそこに生える「くさ」をひとつの風景として見立て、写真を撮って自由に名前や物語を考え、「まちくさカード」を製作します。
京都の一般財団法人NISSHA財団(2021年度まではNISSHA株式会社)とともに、近隣の小学校で実施しています。また、京都府立植物園名誉園長の松谷茂先生にも「ほんまもん」の植物の授業をしていただいています。
以前は単発のワークショップとして実施していたのですが、2018年度以降、学校の先生から年に数回行うプログラムに変えられないかというご相談をいただいたので、「まちくさ日記」と「まちくさ図鑑」の製作を新たに加え、「観察・記録・発信」をテーマに取り組んでいます。
──なぜこのような活動をしているのですか?
井手上:多様性を認めることの大切さを子どもたちに伝えたい、という気持ちが大きいですね。
「まちくさみっけ」では、写真の撮り方や名前の付け方に、子どもの価値観が表れます。中には、大人も驚くような斬新な視点もあります。そうした考え方に触れることで、多様な価値観を学んでほしいなと思います。
最近はようやく、国籍のことやLGBTQ+のことなど、多様性に関する様々なことが話し合われるようになってきました。ただ、究極を言えばそうした属性だけでなく、人間は一人ひとり異なる価値観を持っているのが当たり前です。それを認め合える空気を作ることが、多様性にまつわる全ての問題の解決につながっていくのかなと。
なので、まずは友達や先生など、身近にいる人の価値観や思いを大事にしたり、考え方を伝え合ったりすることが、すごく素晴らしいことなんだよ、やっていこうよ、というのをメッセージとして発信したいです。
──そのために気を付けていることは何ですか。
井手上:まず、子どもたちのそれぞれの感性を引き出すことが大事だと思っています。
学校教育の現場では、もともと決められた学習指導要領があって、子どもたちに知識や技術を身に付けさせてその成果を点数化するというプロセスが中心です。
しかし、私たちが行っているアーティストとのワークショップというのは全く逆。アーティストがいろいろな仕掛けをし、子どもたちがそれに反応するんですが、大人たちが全く予想もしないような反応が生まれるんですね。
そういう何が起こるかわからないっていう「楽しさ」や「怖さ」を楽しむ空気を作ることで、子どもたちの個性がどんどん引き出されていくのではないかと思っています。
川那辺:例えば、「まちくさカード」をつくる中で、枠外に4コマ漫画を描いてくれる子どもがいました。その4コマが本当に面白くて。学校の課題として取り組むとなかなか出てこない発想だと思いますが、このワークショップは何を描いても自由なので、こういう意外なクリエイティブを発揮してくる子どもも多いんです。
この意外な個性を引き出せるように、私も一歩引いた位置から「どうやったら新しい一面を引き出せるかな?」と考えるようにしています。
──人形劇「カンカン塔のみはりばん」についてはいかがですか?
川那辺:これは音響機器メーカーのTOA株式会社と協働で行っている、防災をテーマにした人形劇で、プロの人形劇団やミュージシャンに公演していただいています。
TOAさんは音で危険を知らせる防災装置も手掛けていて、防災に関する教育を子どもたちの心に届けられる形でやりたいとご相談をいただいてスタートしました。
井手上:防災プログラムって、やっぱり物々しくて怖くなりがちですよね。私も小さい子が2人いて、防災センターにプライベートで行くことがありますが、ビデオなどを見ても、怖くて泣いてしまうことがありました。恐怖が先に立ちすぎてしまうので「防災とは何か」というメッセージが届きにくいのかなと感じました。
「カンカン塔のみはりばん」はキャラクターのかわいさや、音楽のきれいさもありますが、子どもが持っている世界観にすっと入り込んで伝えられるものになっています。
怖い!とパニックになるのではなくて、子どもの目線で起きていることをとらえて、どうするべきかを一緒に考えてもらえる内容です。子どもとのコミュニケーションでは、この「同じ目線に立つ」というところが一番大事なのかなと思っています。
──企業や教育現場との協働で苦労されることは?
井手上:それぞれに文化や価値観があるので、そのすり合わせに苦労することは多いです。
ただ、それは逆にメリットにもなると思っています。価値観が違うからこそ新しい発見があったり、苦手な部分を担っていただくことで取り組みが広がったりすることもあります。
私たちだけだと10の力しかなかったものが、お互いの強みを掛け合わせると100になるということを何度も経験してきました。これも多様性を生かすことで生まれる力と言えるかもしれませんね。
──井手上さんとPRリンクの出会いは、KADを設立する前の2007年でしたよね。
井手上:そうでしたね。以来、PRリンクさんにはいろいろと広報の視点からアドバイスをしていただいています。
私たちが行うような社会貢献活動は、地味なものも多いです。それをたくさんの方に広く、伝わりやすくするのは大切であると同時に、とても難しいことだと感じます。
PRリンクさんは、お話をしながら「どういう視点でまとめていったら、皆さんの心に届くんだろう」「社会の中で、どういう位置づけになるんだろう」といったことを一緒に整理していただけます。代表の神崎さんには2017年には副理事長にもなっていただきました。頼れるブレーンのような感じですね。
──これから取り組みたいことは。
井手上:コロナ禍で目に見えない形で苦しんでいる子どもたちはかなりの数いるはずで、心の交流やコミュニケーションする機会を復活させたいと思っています。KADはここ10年来の実績や知識の蓄積があるので、いつでもそこに乗り込んでいけるように準備を進めています。
ここまでは企業さんとご一緒した事例を挙げましたが、NPOとのコラボレーションも過去にいくつも経験しています。企業に限らず、そうした取り組みに共感していただける方との新しい出会いがあるといいなと思いますね。
多様な考え方に寄り添い「子どもとアーティストの出会い」から、子どもの心を育てていく様々な活動が生まれています。次はどんな取り組みやコラボレーションが生まれていくのか、期待が膨らみます。
子どもへの教育を通じて社会貢献をしたい企業・団体の方は、ぜひ一度ご相談されてはいかがでしょうか。
掲載日:2023/3/31