山陽製紙株式会社
代表取締役 原田六次郎 さん
「環境に配慮した循環型社会への貢献」を企業理念に掲げる、紙再生サービスメーカー山陽製紙(大阪府泉南市)。昭和3年の創業以来、製紙業を生業としてセメント袋に使用するクレープ紙を主に製造、現在は高付加価値な再生紙の開発や販売、紙が循環する仕組みを考え実践することにも注力しています。企業理念の背景や、環境をよくするための取り組み、価値観について、話をうかがいました。
―「環境に配慮した循環型社会への貢献」という企業理念ができたきっかけはなんでしょう?
今から16年前、山陽製紙として50周年記念をお祝いした時のこと。OBの方々から「次は100周年だね」と声を掛けられたのですが、市場が縮小する中、自分には正直3年後、1年後の見通しもたっていませんでした。おまけに製紙業は大量の水と電気を消費する環境負荷の大きい業種。「私たちは社会に存続してもいいのか――」そんな問いがつきつけられました。その問いへの答えを探るように社員と練り上げたのが、この企業理念になります。
-「環境に配慮した紙づくり」のため、どのような事業をされていますか?
「循環型社会への貢献」という理念をカタチにするため、古紙の単なるリサイクルではなく「アップサイクル」の考え方で使いたくなる再生紙づくりに力を入れています。
例えば当社の強みの一つである「すき込み技術」を活かして開発した消臭・調湿機能を持った再生紙「SUMIDECO(スミデコ)」は、産業廃棄物として捨てられる「梅の種」を炭化して古紙にすき込んで作っています。このすき込み技術と、小ロットでも対応可能なことから、企業からの「こんなものもすき込めないか」「こんな紙がほしい」という声に応えるオーダーメイドの紙作りも行っています。高い強度を持つ「工業用クレープ紙」を活用したブランド「crep(クレプ)」も立ち上げ、紙なのに繰り返し使えるピクニックラグは、グッドデザイン賞受賞など評価を得ています。
また、企業会員より不用なコピー用紙を回収し、封筒や名刺などの再生紙製品に加工し還元する「PELP!(ペルプ)」という取り組みも。ペルプでは紙ゴミを資源に変えるだけでなく、どの企業で分別された紙か、それがどんな紙製品へと生まれ変わったかなどの再生状況をWEB上で確認することができる、世界初の紙のトレーサビリティサービス「KAMITORE(カミトレ)」の開発、導入も行っています。
-生産過程の水質や電力についても配慮されていますよね。
もともと、排水基準値を下回る水を排出していたのですが、企業理念を掲げてから「うちが率先して良いことをしなければ」という思いで排水処理施設を新しくし、可能な限りきれいにした水を自然に還すようにしています。また電気も全て再生可能エネルギーに切り替えました。
どちらも直接生産性には繋がらないので、社員から「そんな高い設備を導入するなら給料を上げてほしい」という声が上がってもおかしくはありませんが、理解してもらっています。
-社員の方々へ理念が浸透しているからこそだと思います。企業理念の浸透や、社員教育のためにどんなことをされたのでしょうか。
理念ができた当初は「循環型社会」という言葉は社内に全然浸透していませんでした。そんな中、eco検定というのがあるのを耳にし、実際に受験してみたところ「これなら社員が循環型社会について学ぶ良いきっかけになる」と思い受験を勧めました。今では社員の9割以上がeco検定に合格してエコピープルの資格をとっています。合格したことが自信に繋がり、さらに学びたいという社員は、PRリンクさんが大阪の事務局をされていたサステナブル経営/CSR検定も受験し、こちらも6割ほどの社員が合格しています。
今では理念をカタチにすること、実現することを誇りに思って仕事に臨んでいる社員も多くいます。
-理念の実現のために、社外への発信にも力を入れられているのでしょうか。
陰徳の美といいますか、もともと「わざわざ外へ発信しなくても良いのでは」という思いがありました。ですが「グリーン経営者フォーラム」関西支部立ち上げをきっかけにオルタナさん※やPRリンクさんと関わりが始まり、その中で「発信しないと伝わらない」と認識が変わりました。今では、日本の製紙業として初認定された、温室効果ガスの排出削減目標に適合した企業の証となるSBTなど、環境関係の認定や賞を取得し、様々な取り組みも合わせて積極的に発信を行っています。
発信しメディアに取り上げられることで、社員のモチベーションが上がりますし、対外的には「環境への意識が高い製紙会社」というブランディングに繋がっています。
(※株式会社オルタナ。グリーン経営者フォーラムやCSR検定などを主催、環境やCSRに重点を置いたビジネス誌『オルタナ』を発行しており、当社はその関西支局立ち上げ時の事務局を担いました。)
-今後実現したいことについてお聞かせください。
ペルプを通して、色んな業界の人と知り合いになれました。会員対象のミーティングを定期的に開催し、会員同士の協働にも繋がっています。
PRリンクさんにお声がけいただいた、若者と中小企業のプラットフォームづくり「ミライ企業プロジェクト」、中小企業経営者や広報担当者が広報についてフラットに話し学ぶ「みんなで広報会議」などに参加させていただき、その中から他社とのコラボレーションなども生まれています。
循環型社会をつくるには、一社だけではできません。ですので、例えば各地域の製紙会社さんと共に地域の紙を集めて再利用する各地域版ペルプを始める、当社との協働で循環を体験した会社が独自に循環に貢献する活動を始める、そんな風にして循環の輪を広げていきたいと考えています。
掲載日:2023/2/22