広報広聴課時代にPRリンクと出会う
村井さんとPRリンクの出会いは、現在の部署に異動する前の、広報広聴課時代のこと。当時村井さんは市のプレスリリースなどを担当されていましたが、「施策立案・実施の主役は担当課」という考え方のもと、平成27年に担当課自らがプレスリリースのベースを書くという方向に転換。しかし、行政文書をそのまま流し込むようなケースが多かったことから、市職員向けの広報研修をご依頼いただき、4年間継続して実施しました。
「広報のプロというとマーケティング的な発想で取り組まれる方が多いと思いますが、話題になるために奇をてらうというよりは、王道のコミュニケーションが必要だと考えていました」と村井さん。PRリンクの社会性に焦点を当てた広報手法がその方向性になじむと考え、ご依頼いただいたという経緯があります。また豊中市のとよなか起業・チャレンジセンターですでに広報セミナーを実施していたことから、行政についてある程度の理解があることも決め手の一つでした。
くらし支援課では、労働力の活用が課題に
その後村井さんは2017年に現在のくらし支援課へ異動し、雇用労働の担当に。最近特に注力しているのが、働く能力があるにも関わらず就労していない方を、就労につなげていく取り組み。豊中市は市外に働きに出る方が多い一方、就労していない子育て世代の女性が多く、潜在的な労働力を活かしきれていない現状があります。
そこには2つの課題があると村井さん。「1つは、そうした女性にいかに働く気になってもらうかということ。もう1つは、事業者側にそれを受け入れる体制ができていないことです」
豊中市は大阪市のベッドタウンという都合上、例えば関東の会社に勤務する方が転勤してきて、豊中市内の借り上げ社宅に住んでいるケースも多いそう。いわゆる転勤族と言われる人も多く、数年後にはまた豊中市を離れてしまう可能性があるため、長期勤務を前提とする職場では就労しにくいという問題があります。
また、子育てと両立するためにはフルタイムでの勤務は難しいという方がほとんど。短時間勤務をしたい女性に対して、働く場を提供できる事業者が少ないのが実情です。
「豊中市の子育て世代の女性は、結婚・出産前はバリバリ働かれていた方も多いんです。事務などのスキルをお持ちの方が多くいらっしゃるのに、短時間や短期での勤務となると、レジ仕事のようなパートでの求人がほとんど。せっかくのスキルを発揮していただく機会を提供できていないことに、もったいなさを感じています」
労働問題に、広報でアプローチする
こうした状況に対して、広報の力でできることがあるのではないか。そう考えた村井さんから、再びPRリンクへとご相談をいただきました。
まず実施したのが、事業者に対して多様な働き方を推進するセミナーです。短時間勤務や在宅勤務、複業人材の活用、ワーケーションなどの多様な働き方について、弊社事例を交えながら講演しました。その目的は、多様な働き方の推進が、事業者側のメリットにもつながると理解していただくこと。「豊中市には対人サービス業を営む事業者が多く、テレワークが進まなかったり、過重労働になりやすい傾向があります。かといって、正社員を新たに雇うとなるとコストに見合わず難しいという事業者もいらっしゃいます」と村井さん。しかし、子育て世代の労働力を活用できれば、既存の従業員の負担が減り、事業者側にも大きなメリットがあるはず。そこで、まずは事業者側に多様な働き方を推進するマインドを持っていただきたいと考えセミナーを企画しました。
とはいえ、社風や制度を変えるのは大変だという反応があったのも事実。そこで次の一手として、現在はフリーランスの支援に注力しています。「事業所さんからすれば、従業員の解雇が難しい制度設計となっており、人材が欲しくても雇用することに躊躇するケースもあります。また、1カ月丸々勤務してもらう必要はないけど、月初の5日間だけ助けてほしい、といったニーズもあるようでした。そこで、お試し雇用のような形で、業務委託で仕事をしていただき、双方の希望がうまくマッチングすればそのまま雇用につなげていただける、そうすることで既存の従業員さんの負担も減る可能性があるのではないかと考えています」
こうしたニーズに応えられるのは、子育て中の女性だけではありません。昨今のコロナ禍で仕事が止まって就労相談に来られる方の中には、業務委託で働いていた方もいらっしゃいます。そうした方を仕事に繋げていくことができれば、事業者側にもメリットがあるはず。
そこで実施したのがフリーランス向けの自己ブランディングセミナーでした。広報の基本的な考え方から広報ツールの特性、活用方法などを、事例を踏まえて解説。フリーランスの方が自分のことをうまくPRできるマインドを醸成することで、事業者とのマッチング機会を増やし、結果的に企業の労働問題の解決につながると考えました。
広報で、困っている市民を助けたい
広報広聴課を離れた今、ますます広報力の必要性を実感しているという村井さん。「人と仕事をマッチングするとき、条件面はもちろん、事業の社会性や価値観が一致することも大切です。事業者も求職者も、まだまだ自分のことをPRするのが苦手な方が多いと感じています」。双方の伝える力を高める取り組みが、人と企業のマッチングを進めるキーポイントになると語ります。
「市職員としてもう1つ実現したいのは、広報を活用して困っている市民に助けることです」。市役所は困っている市民を助けるセーフティネット的な役割を担いますが、そのための制度も市民にうまく伝わらず、活用につながらないケースもあります。そうした苦しんでいる方を助けられるように、情報をタイムリーに、わかりやすく届けていきたいと村井さん。「PRリンクさんは企業理念の考え方が市民を助けるという方向性と一致していますし、広報広聴課時代に一緒にお仕事をする中で、広報の本質や行政・自治体の考え方を理解してくれているという実感があるので、とても信頼しています」。安心して暮らせるまちを作るために。広報を通じて市民をサポートするPRの輪が、ここから広がり始めています。
掲載日:2023/2/1