読んだ人の「行動」につながり、会社に循環していく「響きあい」を生み出したい
ラテン語で「音」をあらわす「sono」をタイトルに掲げたTOAの社内報。そこには音響機器メーカーとしての原点と、社員の思い・行動が響きあう経営をめざす姿勢が表れています。しかし和田さんがTOAに入社した2005年当時は、この社内報は休刊中。社内イントラネットを活用した電子版グループ報だけが、社内をつなぐメディアでした。
「電子版だけでなく、やはり紙ものの広報誌も充実させたいとの方針で、SonoSonoが復刊したのが2007年。しばらく過去の内容を踏襲しながら何とか発行していました」と当時を振り返る和田さん。その状況に変化が訪れたのは2009年のことでした。
女性イラストレーターによるイラストやロゴで、親しみやすい世界観を打ち出した新生「SonoSono」。
「現社長就任とともに中期6カ年経営基本計画がスタートしたことがきっかけで、社内報をリニューアルすることを決意しました。国内外のTOAグループが一丸となっての“グループ経営”というビジョンが強化され、それを社内に浸透させることがSonoSonoのミッションになったんです。会社が変わろうとしているのだから、広報室も変わらなくてはいけない、そんな思いでしたね。リニューアルに当たっては、単なる情報誌ではなく、中期計画の進捗を従業員に理解してもらうことで、従業員一人ひとりの次の行動につながり、その行動が会社に循環し広がっていく“響きあい”を生むような冊子にしたいと考えました」。
クリエイターの発想を生かした共感性の高いツールで、全社をつなぐ
リニューアルを請け負うチーム選びに当たっては、3社による競合コンペを実施。その中にPRリンクも参加していました。
「実はコンペには社内報作りを専門にしている制作会社さんもいらしたんです。やはり他社の事例含めて社内報のことをよくご存じで、制作効率を高めるご提案などもいただきましたが、そのことが逆に“セオリー通り”につながってしまう気がしたんですね。その点PRリンクさんは、神崎さんも土井さんも前職で社内報作りの経験をお持ちでいながら、既成概念に縛られないで、フリーで活躍されてるデザイナーさんやライターさんなど、クリエイターの人的ネットワークから生まれる発想を生かしておられて、そこにとても興味を持ちました。“一緒に作ってみたい”というワクワク感を感じたんです。実際に、今もその部分がSonoSonoの成長にすごく寄与いただいてると思います」。
入社以来、社内報のメイン担当者として関わってきた和田さん(左)と、リニューアル後からSonoSono制作メンバーに加わった中西加奈枝さん(右)。
親しみのある手描きロゴやイラストを表紙にすることで、海外でも読まれる社内報にふさわしく、国境を超えた共感性のある世界観を打ち出した「SonoSono」。実際に社内でも「手に取って読みたくなる」という声が増えたとか。それまで社内イントラネットに入っていない海外事業所は、電子版グループ報を読むことができない状態だったため、「SonoSono」は今や国内外の全TOAグループをつなぐ唯一のツールとして存在感を発揮しています。
日英中の3か国語で展開するSonoSono。TOAの歩みを振り返るアーカイブページは、海外からも注目の的です。
「とくに海外の方は会社の歴史や企業文化にとても関心が高く、過去にいつどんな業績があったかを知ることで、改めて会社の価値を認識し、帰属意識やモチベーションを高めてくれているようです。ある海外グループ会社の役員が、キックオフの場でSonoSonoのアーカイブ記事を引用したスピーチをしてくれたこともあり、あとで『読んでくださってるんですね』とつたない英語で話しかけたら、『もちろん!』との答えで…」と語る和田さん。
リニューアル後からSonoSono制作チームに加わった中西さんも、同じ手応えを感じているといい、「海外とのメールのやりとりで、『いつも読んでます』と言ってもらえることもあり、励みになります。今期は全社的に海外メンバーとの距離が縮まっているのを実感しますが、そこにSonoSonoが貢献できているとすれば嬉しいですね」と言葉を添えます。
試行錯誤を重ねるプロセス自体が価値、という声に励まされて
編集作業は、まず広報室の会議で企画を作った上でPRリンクとディスカッション。発行後の合同反省会も恒例です。従業員参加型コンテンツを展開したり、社外ステークホルダーの目から見たTOAの姿を明らかにするインタビューを盛り込むなど、PRリンクの提案をふまえ、試行錯誤を繰り返しながら、内容は現在も進化中です。
「広報室に配属されるまで、自分はコミュニケーション下手だとずっと思っていたんですが、ここでの経験で鍛えられましたね」と和田さん。
「中西もチームに加わってメンバーが増えたことで、より多面的に企画を考えられるようになりました。まだどうしても内容が硬いところはありますし、現場の声をもっと誌面に取り入れて共有したいなどの課題もたくさんあります。でも土井さんはいつも“社内報は商業雑誌などと違って、社内で試行錯誤を重ねるプロセス自体が価値であり企業の財産になっていくもの。その中で悩みがあれば二人三脚で寄り添うことがPRリンクの役目”と言ってくださって、とても助けられています。社内報制作特有のむずかしさを身を持って知っていらっしゃるからこそですよね」と和田さん。
広報6年目となる中西さんは、「和田が広報室で蓄積してきたノウハウに学ぶことも多いですが、関わってくださっているデザイナーさん、ライターさんなど社外の方に、自分たちでは思いもよらなかったようなアイデアをいただくこともあり、そんな学びがあるのもPRリンクさんのおかげだと思いますね」と話します。
SonoSonoが刷り上がり納品されると、和田さんと中西さんが手分けして本社中を廻って社員に手渡し。「わあ、できたね」との反応が何より嬉しいとか。海外向けに発送する時も、必ず手紙でメッセージを添える気配りを忘れません。2013年の4月からは課から部扱いに昇格を果たした広報室。グローバル企業としての組織を活性化させるインナー・コミュニケーションへの期待は、ますます高まっていくことでしょう。
(取材・文/松本 幸)