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インタビュー非営利法人

「ふたごじてんしゃ」の先にあるのは、誰もが命の誕生を喜べる社会

株式会社ふたごじてんしゃ 代表取締役
特定非営利活動法人 つなげる 代表理事
日本多胎支援協会 理事

中原 美智子さん


兵庫県尼崎市を拠点に活動する株式会社ふたごじてんしゃ代表の中原美智子さん。双子の子育てを機に、2016年に会社を設立し、双子が乗せられる三輪の自転車を企業と協働で開発・販売。「ふたごじてんしゃ」と名付けられた製品は、双子を育てる多くの保護者の共感を得ました。そこから活動は広がり、現在はNPO法人つなげるの代表理事としても活動し、多胎のママや双子を育てる保護者の悩みや願いに寄り添い、交流や情報交換の場をつくっています。

中原さんが、オリジナル自転車の開発、そしてNPO法人を立ち上げるまでに至った背景には、どのような思いや目指す社会があったのでしょうか。


当たり前ができない、双子の子育て

双子を産んだからふたごじてんしゃが生まれた、と紹介されることが多いんですけどそうではないんです。まず長男の存在が大きくて。

──そうなんですね。

長男の育児はやりたいと思ったことができたけど、双子になった途端全くできなくなりました。母として申し訳なくて……。二人が泣いている時に、一人は抱っこできてももう一人は泣いたまま。赤ちゃんの要求に答えられないことで、母としての肯定感が得られないまま子育てが続きました。そんな状況を変えたい、という決意からふたごじてんしゃは生まれています。

──当たり前ができないつらさがあったんですね。

もう一つが、多胎ママの引きこもり問題です。双子の育児は一人と全く異なります。外出するハードルの高さから、社会との接点が少なくなり、引きこもりになる方は多数いると言われています。

──それほど多くの方が問題を抱えていらっしゃることは、あまり知られていません。製品化までは順調にいきましたか?

いえ、まったく(笑)自転車屋さんに相談したら、「自転車屋では自転車を作っていない」とあしらわれました。私が作りたいのは、双子を乗せても転倒しない三輪の自転車。それならとリヤカーメーカーに掛け合って、試作品をつくってもらいました。SNS発信をして仲間を集め、双子ママの声を聞きながら、さまざまな交流会にも顔を出しました。そんな中で、オージーケー技研株式会社(以下、OGK)さんとの出会いが転機になりました。


手間でもあえて選択した、アセスメント販売

──最終的に2018年よりOGKさんからふたごじてんしゃを販売されています。

でも全然スムーズに行かなくて。ふたごじてんしゃを製品化しようと歩き出してから4年の月日をかけてようやく販売に漕ぎ着けました。

──会社を作られたのも、企業との協働も初めての経験でしたよね。

最初は「なんかやりたいんです」と言っているママにしか見られていなかったと思います(笑)試作品を持って、ふたごじてんしゃのオフ会をしてOGKさんに直接声を届けて、なぜこれを製品化する必要があるか、問題の根本を知ってもらえるよう働きかけました。

──世界観を大事にした商品だと聞いていますが、どのような点を大切にされたのでしょうか?

ただ商品が売れることではなく、「今日も楽しかったね」と帰ってくる家庭がひとつでも増えることに最大の価値があると考えています。二輪と三輪では乗り方が全く異なります。ふたごじてんしゃが自転車屋さんで売られていたら、双子を育てるママはきっと飛びつくでしょう。

でも、うまく乗れずに怪我をしたり返品をされたりしてクレームが増えたら、商品を販売し続けることが難しくなり、結果的に双子ママの送迎手段がなくなってしまう。だから事業を続けることも責任であるので、「アセスメント販売」と言って、なぜこの自転車を必要としているのかといった質問から、車体の特徴、交通ルールを事前に理解してもらう販売方法を取り入れています。

また、購入後アセスメントを実施し、生活や心持ちの変化などをきかせてもらい、本来の目的が叶ったのか答え合わせのようなことをさせてもらっています。

──あえて、手間のかかる売り方をすることが、ふたごじてんしゃの世界観を広げることに繋がっているんですね。

世界観は、メーカーサイドだけでは完成しないので、多胎家庭と直接かかわる自転車店舗さんにも、仲間になってほしいと考えています。「頑張っていますね」「応援しています」と声をかけてくれる人が地域に一人でも増えてほしいと思ったんです。

「つなげる」で多胎ママの心を自由に

──2018年には、NPO法人つなげるも立ち上げられましたよね。

試乗会に来てくれる双子ママと話すようになると、ママの孤独感や経済的な悩み、子どものことなど、さまざまな困難を抱えていることがわかりました。

目を輝かせてふたごじてんしゃに乗ってくれても大変な背景をそれぞれが抱えている。だったら、ママたちにとって信頼できる人を増やし、安心して話せる場所をつくることで、自分らしいよりよい生き方を応援できるのではないかと思ったんです。

──自転車に乗って出かけたい先や、出かけたくなる心の自由を持てる環境をつくろうと。確かに、子育て世帯が安心して暮らせる社会には現状なっていないですね。

双子を産んだからしんどいと思って欲しくないなって。命の誕生を当たり前に喜べる社会をつくりたいというのは、ふたごじてんしゃとつなげるで共通して持っているテーマです。

──そんな社会があって初めて自転車も楽しめますよね。

そうですね。出かけることは、自分のことを知ってもらい地域の人とつながること。人生を豊かにしていくために、ふたごじてんしゃを提案しています。

当事者が自分で言葉にできないことを伝えていく

──PRリンクとの関わりは、OGKさんとふたごじてんしゃを開発・販売されるときに、メディア発信をご依頼いただいたところからです。発売から4年が経ちましたが、その後はいかがですか?

OGKさんから言われてすごく印象に残っているエピソードがあって。「通常、会社への電話はクレームしかないけど、ふたごじてんしゃは何かトラブルがあっても、『作ってくれてありがとう』と感謝の言葉をいただける。事後サポートは大変だけど、働く側の気持ちも変えてくれる商品です」と。

それはふたごじてんしゃのことを理解してくれるファンを増やしてきたということだと思いますし、OGKさんがこれまでになかったコンセプトの企画を採用してくれて、ママや子どもが笑顔になる時間をつくるという、商品販売の先にあるゴールを握ってくれたからだと思います。

──私たちも何度か試乗会に行きましたが、ママたちが泣きながら運転していますもんね。

PRリンクさんのように、ふたごじてんしゃの取り組みを発信してくれる人が増えたら、世の中には様々な困難を抱えている方がいることをもっと知ってもらえると思います。自分で言葉にできない大変さや苦労を知ってくれる人がご近所に増えることは、とても心強いことです。

──今後、注力していきたいことは?

先日、「育児と仕事を両立しやすい職場事例インタビュー」調査を、PRリンクさんに協力いただいて進めましたが、多胎ママが経済的に安定して、キャリアを積んでいける社会にしたいです。

多胎は妊婦健診の回数も多く、急な管理入院になるリスクも高い。仕事がしたくてもできず、辞めざるを得ないケースもあります。多胎への理解を企業にも広めていきたいです。

──いろいろとご一緒したいですね。

ぜひ。命の誕生を喜べる社会とは、赤ちゃんだけではなくママ自身が存在するその命も祝福できるようになること。移動もキャリアも様々な願いが叶う社会をつくっていきましょう。

掲載日:2023/6/23

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