一般社団法人72時間サバイバル教育協会 代表理事
一般社団法人ジャパンキッズ 代表理事
株式会社ココロ 代表取締役 CEO
片山 誠さん
阪神・淡路大震災や東日本大震災などの大規模震災のほか、台風やゲリラ豪雨による土砂崩れが多発するなど、多くの災害リスクを抱える日本。そんな中、災害の中でも生き抜く力を子どもたちに伝える活動を行っているのが「72時間サバイバル協会」の片山さんです。
片山さんが災害教育を通じて伝えたいこととは。そして、これから実現したいことは。詳しくお話をお伺いしました。
──「72時間サバイバル教育協会」とはどういう団体ですか?
災害時の人命救助のタイムリミットが72時間と言われていて、子どもたちがこの72時間を自力で生き抜けるように、さまざまな講習を通してサバイバルの知識とマインドを身に付けてもらうために設立した団体です。
その後、神崎さんもメンバーになっている「大阪を変える100人会議」に出席したときに、防災をテーマにディスカッションをする機会がありました。そこで子どもたちが生き抜けるようになる学習プログラムをアウトドアを通じて広げていきたいよねという話になり、3団体で協会を立ち上げることにしました。
──具体的にはどんなことをされているんですか?
サバイバルマスター養成プログラムといって、ライフラインが止まった状態で生き抜くために必要なことを8つのプログラムに分類して教えています。ただ、この8つを習得すれば即生き残れるようになる、というものではなくて、習得する過程で自分で考えて行動するサバイバルマインドを身に付けてほしいというのが本当の目的です。
例えば、「ファイヤー」のプログラムであれば、マッチを使って新聞紙に火をつける方法を学びますけど、新聞紙の上につけるのか、下につけるのか、真ん中につけるのかなど、つけ方にもいろいろあるんです。でも、そういうことは基本教えないで、選択肢だけを与えます。それで与えた選択肢を全部やってみてもらうんです。全部やったら正解がわかるでしょ、と。
──いきなり正解を教えることはしないと。
一切しないですね。自分で確かめることで身に付くということもありますし、正解を教えてしまうと、それがどんな状況でも正しいと思い込んでしまって応用ができなくなってしまうんです。
例えば、実際に災害に遭遇したとき、濡れた薪しかないから火がつけられない、では困りますよね。濡れた薪しかなくてもできる方法はないか。それを自分で考える力を身に付けてほしいと思っています。ですので、どれだけ失敗してもニコニコ見守りながら自分で考えてもらうという方針にしています。その分、講習後の検定の合格率は低くなりますが、学ぶ意欲が高まり、何度も講習に通ってくれる子どもたちが多いです。
──企業や大学との協働も進めているそうですね。
災害が起きた時に、企業や大学が周辺の被災者を受け入れることもあり得ると思うので、そのための体験プログラムなどを実施しています。
例えば、ホテル日航さんとは避難所体験キャンプを開催しました。一般参加者の方には避難所生活を、ホテルのスタッフの方には避難所の運営などを体験してもらい、実際に一晩過ごしてもらいました。
ホテルの場合、災害が起きたときに宴会場などの広いスペースを被災者に提供することが一つの社会貢献になります。ただ、場所だけ貸せばいいというわけではなくて、スタッフがどう動くのかをシミュレーションしておくべきで、それは実際にやってみないとうまくいくのかわからないんです。
一般の方も、避難所生活で必要なものがわかります。このときは冬に実施したのですが、床がゴツゴツしていて段ボールを敷くくらいではよく眠れないとか、ホテルではなくて体育館だったらもっと寒いはずだとか、いびきをかく人がいると耳栓があったほうがいいよね、とか。リアルな体験を通して初めて気づけることがありますよね。
他にも、千葉商科大学さんと「車バイバル」と題して、車で避難した人が車中泊をするプログラムを実施したりもしています。
──キャンプの2週間後に関空でタンカーの衝突事故が起きましたね。
陸地と関空をつなぐ道路が通行不能になって、ホテル日航さんで帰れない人を受け入れたんですよね。2週間前に訓練したばかりだったので、誘導などがとてもスムーズにできたと聞いています。事故が起きたこと自体は驚きましたが、日常の準備の大切さを知ってもらうという意味ではいい機会でしたので、PRリンクさんにお手伝いいただき、プレスリリースも発信しました。
──サバイバル以外にも、始めた取り組みがあるそうですが。
ジャパンキッズプロジェクトといって、寄付を集めて、子どもたちがやりたい!と思ったことを自己負担なしで体験できる取り組みを進めています。 サバイバル体験も本当は無料でもやりたいんですが、運営コストもあるのでどうしてもできないんです。でも、私たちだけではできなくても、日本中の大人が子どもたちをサポートする仕組みを作ればできるんじゃないかと。
第一弾として、全国27か所で大豆を植えて育て、最後に味噌づくりをするというプログラムを実施中です。体験する人が増えるほど農業を将来の選択肢の一つとして考えてくれる子どもが増えると思うし、実際に就農する人が出れば農業の後継者問題や、食料自給率の解決につながっていきますよね。こういう次世代へのサポートが、自分やその家族に返ってきて、結果国力が上がっていくというのをはっきりと見せたいと思っています。賛同してくれる企業・団体も増えてきています。
──これから実現したいことは?
被災しても自分は大丈夫という自助力のある人を増やしたいですね。災害時は自助・共助が大事とよく言われますが、自助力がないと共助はできませんから。それに、自助力があると自然と人を助けようという気持ちになる方が多いように思います。
そして、そういう人が災害のときだけじゃなくて、日常でも社会的に弱い立場の人を守ってくれるようになってほしいなと思いますね。
ジャパンキッズプロジェクトでは、子どもたちが家庭環境などに左右されることなく、いろいろな進路に進めるように、未来の選択肢を広げていきたいですね。そうしないとなかなか貧困などの状況から抜け出せませんから。そのために他のプロジェクトも企画しているところです。
未来をつくる子どもたちのためにできることを。そんな想いが伝わってくるインタビューになりました。子どもたちの考える力を伸ばす。未来の選択肢を増やす。サバイバルの枠組みを越えた片山さんの活動から、日本の新しい未来が始まっていきます。